埼玉県秩父市にある武甲山(ぶこうさん)は奥武蔵の最高峰であり、地元の人々に古くから信仰されてきた山です。秩父盆地のどこからでも目立ちますが、その理由は、山の半分が採掘されて岩肌がむき出しの異様な姿をしているからです。
見た目は可哀想にも思えますが、登山道のある南側には多くの自然が残っています。この記事では、武甲山の登山ルートや難易度、アクセス、実際に歩いてみた感想を紹介します。
武甲山は秩父地方のシンボルといわれる信仰の山で、標高は1,304mです。山名の由来は、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が自分の甲(かぶと)を岩室に奉納したという伝説からきています。
武甲山の山容は、無残に削られてむき出しの山肌が特徴的ですが、ここまで削られた理由は武甲山が石灰岩でできた貴重な山だからです。遠い昔、海の底でサンゴが積もってできた石灰岩が隆起して地表に現れ、武甲山が形成されました。
石灰岩はセメントの材料となるため、高度経済成長期、首都圏にビルを建てるためにさかんに採掘がおこなわれた歴史があります。武甲山は日本の高度経済成長を支えてきた山であり、現在も採掘によってその姿や標高を変えながら人々の生活を支えてくれている山です。
武甲山は埼玉県秩父市と横瀬(よこぜ)町の境界に位置します。最寄り駅は西武鉄道の横瀬駅、もしくは浦山口(うらやまぐち)駅です。駅から登山口までは徒歩の場合1時間30分ほど、登山口までタクシーを利用する場合は20分ほどで、料金は約3,000円です。
武甲山の標高差は登り787m、下り1,062mで歩行距離9.6㎞であり、難易度は中級レベルです。危険箇所や急登はないものの、じっくりと高度を上げていくので思ったよりきついと感じるかもしれません。山頂に着くまで展望がなく登山道も単調なので、ペース配分に気を付けながら登るようにしましょう。
一の鳥居からスタートし、武甲山のピークから長者屋敷の尾根を下るコースを実際に歩いてきました。
スタート地点は西武秩父駅です。私の場合は秩父鉄道に乗り、御花畑駅から徒歩で西武秩父駅へアクセスしました。新宿・池袋方面からの場合は、西武秩父線の横瀬駅が最寄りとなります。
駅から徒歩またはタクシーで一の鳥居まで向かいます。西武秩父駅からはどっしりとした武甲山の姿がはっきりと見えます。
国道299号線から、石灰工場のある道を抜けて二子林道を進んだ先が一の鳥居です。鳥居を抜けた先が駐車場になっており、立派なトイレも設置されています。登山届の提出をしたら登山開始です。ここから30分ほど、コンクリートの道を緩やかに登っていきます。
武甲山の表参道コースの特徴は「丁目石」が設置されていることです。一般的には「〇合目」という表記が多いですが、武甲山では丁目石がその役目をしています。
丁目石は山頂の神社まで約109mおきに置かれ、一の鳥居が一丁目、本格的な登山道が始まる場所が十五丁目、そして山頂が五十二丁目となっています。
登山口(十五丁目)から15分ほど歩くと水場のある不動滝(十八丁目)です。ここにはたくさんの空のペットボトルが用意されていますが、これは山頂トイレで使うための水をハイカーさんに運び上げてもらうためのものです。余裕があればお手伝いしたいですね。
登山開始から1時間半ほど、杉林の中を登っていくと「大杉の広場」(三十三丁目)に到着します。休憩ベンチが数か所ある広場で、その中央にある巨大な杉の木が「大杉」です。樹齢700年以上とも言われ、長い間参拝者や登山者を見守ってきたであろう、その存在感は圧倒的です。
大杉の根元には「あと60分」の文字が。山頂まではもう一息です。
ひたすらに杉林の中のつづら折りの道を進み、五十二丁目の「武甲山御嶽神社」に到着しました。神社には、身を削って人々の経済生活を支えてくださる武甲山への感謝として「感謝石(初穂料100円)」がありました。感謝石にはメッセージを書いて、二十八~二十九丁目の道祖神祠「石積場」へと奉納します。
神社の裏手を少し登ったところが武甲山の山頂です。山頂からは採掘場所はまったく見えません。北側の採掘エリアは爆破がおこなわれているので、一般の人は立ち入りが禁止されています。
展望台からの秩父盆地の景色です。展望台はそこまで広くないので土日はかなり混み合いますが、この日は平日だったので素晴らしい展望を独り占めできました。
秩父市街地の一部分に鮮やかなピンク色が見えますが、ここが芝桜の丘(羊山公園)です。この日はスッキリと晴れていて、遠くには赤城山、谷川岳、浅間山まで見渡せました。
神社まで戻って休憩後、下山開始です。下山は「長者屋敷の尾根」と呼ばれる尾根道を通って、秩父鉄道の浦山口駅へ向かいます。
武甲山の肩と呼ばれる場所で、大持山方面との分岐を右側へ。
表参道コースとは違い、明るいカラマツ林の急斜面を下ります。傾斜が緩んできた辺りが長者屋敷ノ頭ですが、標識もなく、知らずに通り過ぎてしまいました。
尾根からさらに下っていくと、沢の水の音が聞こえてきます。木の橋を渡ったところが「林道出合」で、ここからは沢沿いの林道を進みます。ここまで来れば、あとは整備されたゆるやかな道を淡々と進むだけです。
「裏参道」とも呼ばれるこのルートには、途中に武甲山御嶽神社の鳥居があります。また、秩父札所三十四ヶ所の1つ「石龍山橋立堂(せきりゅうざんはしだてどう)」とその敷地内に「橋立鍾乳洞」があるので立ち寄ってみるのもおすすめです。
登山のゴール地点、秩父鉄道の浦山口駅に到着です。いかにもローカル駅といった印象で、改札ゲートはなく入場用の簡易的な改札機だけが設置されているので、自由にホームに入れるようになっていました。(トイレや靴洗い用の水道はホーム内にあります。)帰りの電車の車窓から武甲山の姿が見えました。
これまでの武甲山と人々の関わりや歴史を知り、間近で採掘の跡を見たことで、山に対する感謝の気持ちがますます強くなりました。
今も石灰岩が採掘され続けている武甲山。北側の石灰岩を採掘し続けても玄武岩でできた南側は残るため、山自体がなくなることはありません。とはいえ、標高や姿がここまで変化し続ける山は他にないでしょう。
武甲山に登ることで、採掘されていない南側の豊かな自然を味わうことができました。秩父のシンボルであり、歴史を感じられる武甲山にぜひ登ってみてくださいね。
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今回のハイライトは寺坂棚田。武甲山をバックにした棚田の景色は最強でした。今は彼岸花も咲き、赤色が入ってさらに美しくなっています。ぼっ~とずっと眺めてたい。#里山トラベル pic.twitter.com/noqEKNX6fb
— m.miya(宮本将弘) (@masa_yco) September 29, 2019
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
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