奥武蔵エリアにある「棒ノ折山(ぼうのおれやま)」は、渓流沿いのコースで沢歩き気分が楽しめる山です。ゴルジュ(両側から岸壁が迫った渓谷)の迫力ある景色が見られ、クサリ場や岩場のちょっとしたスリルも体験できます。棒ノ嶺(ぼうのれい)とも呼ばれます。
また棒ノ折山は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で話題となった平安時代末期から鎌倉時代初期の武将、畠山重忠ゆかりの山でもあります。この記事では、棒ノ折山のルートや難易度、アクセス、実際に歩いてみた感想を紹介します。
棒ノ折山は奥武蔵エリアにある標高969mの山。白谷沢の渓流沿いを登っていくコースが人気で、夏に登るとせせらぎの音が爽快です。白谷沢の核心部であるゴルジュでは、棒ノ折山ならではの迫力ある景色が楽しめます。
低山ではありますが、コースの途中で沢を横切ったり、クサリ場を登ったり、せまい岩場の急登があったりとスリル満点。これらの箇所を越えたときの達成感が味わえる山です。
「棒ノ折山」の名前の由来となったのは、鎌倉時代の武将「畠山重忠」。武勇のほまれ高く、その清廉潔白な人柄で「坂東武士の鑑」と称された人物です。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、中川大志さんが畠山重忠役を演じています。
重忠は鎌倉に出向くときに棒ノ折山のふもとの道を通っていましたが、美男子で有名な重忠をひと目見ようと女性が集まってきたので、うっとうしく思い棒ノ折山へ登りました。すると、あまりの眺望の素晴らしさに力がみなぎり、思わず石棒を折ってしまったというエピソードが山の名前の由来となっています。
ただし、山の名前の由来には諸説あり、ただ単にこの山で愛用の石棒が折れたからという説もあります。奥多摩側の百軒茶屋から登る登山道沿いにある祠には、その折れた石棒の片割れといわれる石柱が祀られています。
棒ノ折山は東京都西多摩郡奥多摩町と埼玉県飯能市との境にあります。東京方面から白谷沢コースの登山口へアクセスするには、池袋駅から西武池袋線急行で飯能駅へ。そこから国際興業バスの「ノーラ名栗・さわらびの湯」経由「湯の沢」「名栗車庫」「名郷」行きのいずれかに乗り、「ノーラ名栗・さわらびの湯」で下車します。
所要時間は、池袋駅~飯能駅約50分、飯能駅〜ノーラ名栗・さわらびの湯約40分。
マイカーの場合は、さわらびの湯の登山者専用の大きな駐車場(第3駐車場)が無料で利用できます。また、白谷橋付近にも5〜10台程度の駐車場があります。
一番ポピュラーな白谷沢コース(沢登りコース)の難易度は初級程度です。登山道は丸太の階段が崩落している箇所はありますが、ほとんど整備されていて登りやすい道です。ただし沢沿いは濡れていて滑りやすい箇所や、急登でクサリ場になっている箇所があり、天候によっては難易度が上がるので、初心者であれば天候が荒れない日を選ぶのがいいでしょう。
また、11月下旬頃から4月頃までの雪が積もる期間の沢登りコースは凍結で滑りやすく危険なので、初心者にはおすすめできません。
沢登り気分を味わえる一番人気の白谷沢コースから棒ノ折山の山頂を目指し、滝ノ平尾根から出発地点へ下る周回コースを実際に歩いてきました。
ノーラ名栗・さわらびの湯バス停で下車すると、アウトドア施設「ノーラ名栗」があります。この先にはトイレ施設がないので、ノーラ名栗の駐車場奥のトイレを利用しましょう。
白谷沢登山口へはバス停から25分ほどアスファルトの車道を歩きます。
バス停から10分ほど歩くと有間ダムに出ます。ここはバイクのツーリングに人気の場所で多くのバイクが停まっていました。
ダムの堤上を渡ったら右へ曲がり、白谷橋までダムを右に見ながら進みます。
白谷沢コースの登山口には登山届のポストがありました。ここから登山道が始まります。
杉林の中をゆるやかに登っていくと、いつしか沢沿いの道に。幾度か沢を横切る際、足元ばかりに注意しているとルートを見失いそうになるので、案内標識を確認しながら進みましょう。
せせらぎを聴きながらさらに進むと、両側から岩壁がのしかかってくるようなゴルジュが現れます。ここが白谷沢コースの一番の見どころ。一般山道とは思えないほどの迫力ある光景に圧倒されながら通過していきます。
岩場の急登にはクサリ場が設けられていますが、三点支持に気を付ければ難しくはありません。登山者が多い日だと渋滞するので、間隔を空けながらゆっくり進みましょう。
クサリ場を越えると間もなく「白孔雀の滝」が現れ、そこを過ぎると岩場が終わります。岩場がなくなるとしばらく丸太の階段が続く登りやすい道が続きます。林道を横切ったところに休憩ベンチがあるので、その先の急登に備えましょう。
休憩場所から20分ほど登ると「岩茸石」に到着します。5mほどの巨岩とベンチがあり、棒ノ折山山頂方面、下山コースとなる河又名栗湖入口バス停方面、トウギリ林道方面(現在は通行止め)への分岐ポイントとなっています。
いくつか階段がありますが、ほとんど崩落しており利用禁止の貼り紙がありました。ここは無理せず脇道を通りましょう。
岩茸石から山頂方面へ25分ほど登ると「権次入(ゴンジリ)峠」に到着。ベンチがたくさん並んでいる広場で、黒山・高水三山方面への分岐もあります。山頂までは残り15分ほどです。
棒ノ折山山頂(969m)に到着しました。山頂はとても広く、東屋やベンチが多数設けられています。この日も山ごはんを楽しむ登山者で賑わっていました。
北側から東側にかけて開けた山頂からは、奥武蔵の山並みが一望できます。気象条件が良ければ、日光連山や谷川岳まで見られる日もあります。
山頂の景色をたっぷり楽しんだら下山を開始します。下山にかかる時間は1時間45分ほどです。
まずは登りと同じ道を岩茸石まで戻り、岩茸石の左脇に回り込み河又名栗湖入口バス停方面へ。しばらくなだらかな尾根道を進み、途中3回アスファルトの林道に出ますが、そのまま横切りふたたび登山道へ入ります。
杉林の道は木の根が張り巡らされていて傾斜も急なので、つまずかないように注意しましょう。登りの岩場とはまた違う緊張感があり、思ったよりも疲労感がありました。
登山ポストのある地点まで下山してきました。このまま橋を渡って、突き当たりの左手にある坂を登るとノーラ名栗・さわらびの湯へ到着します。帰りのバス時間を確認し、余裕があればさわらびの湯へ立ち寄るのもいいでしょう。
棒ノ折山は、一般コースなのに爽快な沢登り気分を味わえる珍しい山です。ゴルジュの迫力と沢沿いを進む面白さはほかの山ではなかなか体験できません。
また畠山重忠ゆかりの山ということで、大河ドラマで畠山重忠に興味を持った方は歴史に思いを馳せながら登る楽しさも味わえるのではないでしょうか。
都内からも楽にアクセスもでき、下山後に温泉が利用できるところも嬉しいポイント。
ぜひ棒ノ折山に登ってみてくださいね。
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左が石灰が掘られる前、右が現在の武甲山。山が削られることで悲しみの声がある一方、助けられてる面もあり、全部ひっくるめて武甲山なんだと資料館に立ち寄ってわかった。ちなみにチョコレートにも石灰石が使われてることには驚いた!#里山トラベル #武甲山 pic.twitter.com/0XR6Uy5gnk
— m.miya(宮本将弘) (@masa_yco) February 23, 2020
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
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