夏山シーズンで注意したいことの一つが虫刺されです。山の中には蚊やアブの他にも、マダニやハチなど刺されると命に関わる危険のある虫も生息しているので、対策は必須です。
とはいえ、虫よけスプレーは成分や濃度の違いで多くの製品があるため、どれを選べばいいか迷いますよね。この記事では、虫よけスプレーの成分や選び方、さらにスプレー以外の虫よけ対策グッズも紹介します。
雑木林などに生息するヤブ蚊(ヒトスジシマカ)は北海道を除く日本のほとんどの地域に分布する蚊です。5月から10月にかけて、日中に木陰や草むらで吸血します。ヤブ蚊に刺されると、かゆみと腫れが生じるだけでなく、蚊媒介感染症にかかる危険があります。
アブやブヨ(ブユ)は水辺や川、渓谷近くに生息し、ヤブ蚊と同様に吸血されるとかゆくなります。蚊との違いは、針を刺すのではなく、皮膚をかみ切るように吸血する点で、チクッと痛みが生じることがあります。また、蚊よりも毒性が強いため、かゆみが長く続き、皮膚がかたく腫れて治りづらいところが厄介です。
マダニは人家にいるイエダニよりも一回り大きい、山地の草むらなどに生息するダニです。普段は野生動物に寄生し血を吸って生息し、人間を見つけると肌に取りついて吸血します。
マダニが媒介する感染症も多く、中には死に至る場合も。無理にはがそうとすると、口の一部がちぎれて皮膚にが残ってしまうため、ピンセットなどで慎重に取り除く必要があります。
体長2~5cmの円筒型のヒルで、落ち葉の下など湿気の多いところに生息します。人の肌に取りついて、吸血するときに血液が固まるのを妨げる物質を出すため、吸血された傷跡からの出血がなかなか止まりません。しかも、かゆみや噛み跡が数ヶ月残る場合もあります。
スズメバチは攻撃性が高く、登山中にうっかりスズメバチの巣に近づいてしまうと、警戒して周囲を飛び回り、それでも立ち去らなければアゴをカチカチ鳴らして威嚇・警告します。その場合は、スズメバチを刺激するような動きをせず、静かにゆっくり立ち去りましょう。
まれに、いきなり攻撃してくることもあるので、1匹でもスズメバチを見つけたら速やかに立ち去ってください。
スズメバチに刺されたら、アナフィラキシーショックというアレルギー反応を起こす可能性があり、ただちに病院で処置しなければ命に関わる危険もあります。
一般的に使われている虫よけ成分は大きく分けて3種類です。それぞれの特徴や選び方を説明します。
世界的に最も多く使われ、日本でも50年以上虫よけとして使われている成分が「ディート」です。蚊やマダニのほか、アブ、ブヨ、ヤマビルなど多くの害虫に効果があり、1回の使用で効果が長時間続きます。
ディート配合濃度が30%の高濃度の製品は虫よけ効果が長く持続しますが、年齢制限があり、12歳未満の子どもは使用できません。濃度が低いものでも年齢によって回数の制限があります。
「イカリジン」は、日本では2015年に承認された比較的新しい虫よけ成分です。対策できる虫は蚊、ブヨ、アブ、マダニなどで、ディートよりは少ないですが、年齢による使用制限がなく、肌への刺激が少ないので赤ちゃんから大人まで安心して使え、1日に何回でも塗り直しができるのが特長です。
ハッカ(ミント)やユーカリのような天然ハーブは、虫を遠ざける忌避効果があります。一般的な虫よけスプレーと同じく、ハチ、アブ、ブヨ、マダニ、ヤマビルなど全般的な山の害虫に効果があるとされ、天然成分なので副作用の心配がありません。
ハッカ油を水で溶かしたスプレーは簡単に自作でき、ひんやりして清涼感があるため暑さ対策としても効果を発揮します。さらに消臭、殺菌効果があるので、汗のニオイ対策にも効果的です。
高い虫よけ効果を期待するなら、ディート配合の製品がおすすめです。ディート特有のニオイが苦手な人や、子どもと一緒に登山をするならイカリジンがいいでしょう。
テント泊や縦走など長期間の登山には、スプレーの量を調節でき一番コンパクトに持ち運べるハッカ油スプレーをおすすめします。
ここからは、虫よけスプレー以外の虫よけグッズを紹介します。
メマトイとは、体長2mm程度の小さなハエのことです。吸血はしませんが、歩いていると目の周りをしつこく飛び回り、涙の成分を吸うために目に飛び込んできます。
メマトイを避けるのに効果的なのは、防虫ネットを頭にかぶることです。コンパクトに持ち運べるので、顔の周りの虫がどうしても我慢できないときのために持っておくといいでしょう。
服の繊維そのものに防虫効果を施したウェアなら、着るだけで虫が寄り付きにくくなります。代表的なものは、Foxfireが販売している「スコーロン®」や、ワークマンが販売している、「DIAGUARD®」など。虫よけスプレーのような独特なニオイがなく、効果が汗で流れないところが嬉しいですね。
飛びながら小型の虫を捕食するオニヤンマを模した、本物そっくりの虫よけグッズ。オニヤンマはアブやブヨの大敵であり、オニヤンマの姿を見ただけで逃げていくといわれています。
偽物のオニヤンマで害虫が逃げていくとはにわかに信じられませんが、釣りや登山、キャンプで「効果があった」という口コミがネット上で広がり、人気商品となっています。帽子やザックにアクセサリー感覚で着けてみてもいいかもしれませんね。
登山中に万が一、虫に刺されたり噛まれたりした場合、どうしたらいいのかを説明します。
ヤブ蚊やアブ、ブヨの場合は刺された箇所をポイズンリムーバーで吸いだすとかゆみや腫れの症状を軽減できます。ただし、時間が経ってからでは効果が薄いので、刺されたらなるべく早く吸いだすようにしましょう。
患部を清潔な水で洗浄したら、抗ヒスタミン軟膏を塗りこみます。ついかきむしりたくなる人にはパッチタイプもおすすめです。
ハチに刺された場合は、アナフィラキシー症状が出る可能性があるため、すぐに下山して病院で受診しましょう。マダニの場合は、無理に取り除こうとすると口の一部だけ傷口に残ってしまうことがあるため、病院で取り除いてもらう必要があります。
その他の虫刺されも、1週間ほど経過してもかゆみや腫れがおさまらない場合は、病院で診てもらうことをおすすめします。
登山におすすめの虫よけスプレーの成分や選び方、虫よけ対策グッズを紹介しました。虫よけスプレーとポイズンリムーバー、抗ヒスタミン軟膏はファーストエイドキットの一部として常に携行するといいでしょう。
山には命に関わる危険な虫も生息しています。なるべく肌を出さない服装にするなど、虫よけ対策をしっかりおこなって登山を楽しんでくださいね。
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HIKES編集長の山歩きをTwitterでも発信しています。山歩きをしながら地域の歴史を巡る里山トラベル活動をしています。フォローすると喜びます。
東京青梅駅から歩いていける長渕丘陵は気軽なハイキングコース。なんだけど、あかぼっこからは奥多摩の山々が見渡せる素敵な場所です。年末年始でくっちゃりねっちゃりして、鈍った体を整えるきっかけになるのでおすすめです。多分1月に行く。 #里山トラベル pic.twitter.com/NyVksMhOA6
— 宮本 将弘 (@masa_yco) December 28, 2019
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
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