栃木・群馬両県の百名山に選定されている「根本山」は、古くから信仰の山として親しまれています。根本山への登山道は、かつては根本山神社の参道であり、歴史的痕跡と修験道らしいスリルが味わえます。また、春のアカヤシオや秋の紅葉といった四季折々の植物も魅力です。
この記事では、根本山のルートや難易度、アクセス、実際に歩いてみた感想を紹介します。
栃木県と群馬県の境に位置する「根本山」は、標高1,199mの山。関東百名山、栃木百名山、ぐんま百名山に選定されています。周囲には「森林浴の森日本100選」「水源の森百選」に選ばれた桐生川源流林と清流があり、自然豊かな山です。
中腹には、江戸時代に山岳信仰の対象として親しまれた「根本山神社」があり、山神が祀られています。また、登山道には参道への道標とされた丁石や石灯籠が残り、かつての隆盛を偲ばせています。
山頂の展望はありませんが、樹々の間からは赤城山や日光連山といった北関東の名峰が望めます。近隣の「熊鷹山(くまたかやま)」山頂からは360度の展望が楽しめるため、縦走するのもおすすめです。
根本山登頂にはいくつかのコースがありますが、今回は群馬県側の「不死熊橋」を起点として、往路は沢沿いの「根本沢コース」、復路は尾根道の「中尾根コース」を下る、時計回りの周回ルートを紹介します。全行程5時間程度の日帰りコースです。
なお、コースで紹介している「右岸」「左岸」は、川を上流から下流に向かって眺めたとき、右側が右岸、左側が左岸となりますのでご留意ください。
根本沢コースは、中・上級者向きで「不死熊橋」から桐生川源流の根本沢に沿って歩きます。ほどよく整備された自然豊かな登山道で、岩場やクサリ場、高巻き、渡渉が連続する難易度の高いコースです。また、かつて根本山神社の参道だったため、歴史探索としても興味深いコースです。
群馬県桐生市街から県道337号を北上した先の、林道三境線の分岐にある駐車場がスタート地点となります。トイレは駐車場にも山頂にもないため、事前に立ち寄っておきましょう。駐車場からはゲート奥の車道へ進みます。立派な「根本山登山口」の道標があるのでわかりやすいです。
駐車場から5分くらい歩くと、根本山の案内板、登山ポストなどがあります。「根本山参詣路の歴史遺産案内図」は、根本沢コースの見どころが詳細に記されているので、写真を撮っておくとよいでしょう。
すぐ先に沢コースの取り付きとなる「不死熊橋」とゲートがあります。中尾根コースは直進、根本沢コースは左俣の登山道を登っていきます。根本沢コースには「上級者」の看板があって若干怯みます。
いきなり急登になっており、ロープを使って沢の左岸をよじ登ります。もし、ここで自信が持てなければ中尾根コースを選択しましょう!
急登を登ると沢沿いの道になります。標識(丁石)やピンクテープを目印に進みますが、丁石は登るにつれて数が減っていくのがおもしろいです。途中、道がわかりづらい場所は、ピンクテープを見失わずに進みましょう。根本沢コースは、トラバースや高巻きする箇所、飛び石に沿って渡渉する箇所があるため、おのずと慎重になります。
「二十丁」の丁石を過ぎると、沢の左岸をトラバースする高巻き道に入ります。
春は、淡いピンク色をした「アカヤシオ」が咲くことでも有名な根本山。途中、かわいらしいアカヤシオに目を奪われがちですが、沢よりかなり高いところをトラバースするので足元には注意が必要です。
高巻きをあがったところに中尾根コースとの分岐があり、中尾根コースに合流できます。
「天狗のかけ橋」というアルミ梯子の橋があります。上部のロープを掴みながら渡る、アスレチック感満載の橋でドキドキします。
「根本山まで3.5km」の標識を過ぎてしばらくは、比較的穏やかな沢の右岸を進みます。「十四丁」(ヒノキデ沢出合)からは、ハナネコノメやネコノメソウを眺めながら水際近くを歩きます。こんなにも多くのハナネコノメの群生は初めて見たので驚きました。
「炭焼きカマド跡」の標識で、「高巻き(トラバース)」と「根本古道(沢沿い)」の分岐があります。どちらへ進むか迷いましたが、沢沿いの道を選択しました。特に危険はなかったです。
橋がなくなってしまった「シオジ橋」の標識を右岸から左岸へ渡渉し、「十丁」「九丁」を通過すると、「根本山まで2.5km」の標識があります。慎重に進んでいるせいか、1km進むのにも時間が長く感じられます。
その後も、何度も渡渉しつつ、「金穴沢出合」「大割沢出合」「六丁」「小割沢出合」「五丁」へと歩を進めていきます。
「五丁」の先、「魚止の滝」で右岸を巻くロープが高巻きと沢沿いとに分かれています。はじめは高巻きのロープへ向かいましたが、かなり足場が悪く高度も感じたので引き返して沢沿いのルートへ変更。沢沿いのルートは、ボルトのステップが設置された岩場もありますが、難なく通過できました。
やがて「木根畑沢出合」を過ぎると、沢は細くなり、石碑が点在するスピリチュアルな雰囲気に。「二丁」付近には、石祠2基、続いて「鈴臺(鈴台)」とその説明板があります。説明板によると、鈴臺の正面のマークは、根本山神社のシンボル「天狗のハウチワ」とのこと。その後も、岩の上に立つ「奉献根本山神社」の石塔、参道の名残りである18段の石段、そして2つめの「奉献根本山神社」の石塔と、歴史の面影を次々とたどります。
かつて籠堂があった場所で、「男坂(表坂)」と「女坂(裏坂)」の分岐となっています。休憩できる広めのスペースと、石灯篭と案内板、江戸期の鉄ハシゴがあります。案内板によると、かつては籠堂の周辺に女人堂や御供所などの施設があったようで、当時の隆盛が偲ばれます。
歴史に思いを馳せながら、一休みしましょう。山頂までは、まだ1.5km残っています。
籠堂跡から先は、沢から離れ、緊張感の続く登山道となります。今までは、山を巻くように長い道なりをゆったり進んできましたが、ここからは一気に高度を稼ぎ追い込みに入っていくイメージです。
分岐は、右俣が男坂、左俣が女坂になっており、標識に「初めて根本山神社へ参詣する方は裏坂へどうぞ」とも記されています。男坂を見ると、枯れた沢の岩場を登っていくようで「男坂(表坂)危険大」の標識があったため、慎重を期して女坂を選択しました。
女坂に進むとすぐに鉄ハシゴが現れます。このハシゴも籠堂跡にあったハシゴと同時期(江戸期)に寄進された物。一部が破損してロープで処置されていますが、江戸期のものが今も使われていることに感心します。
女坂といっても、岩がゴロゴロしている急登のクサリ場や足場の悪い道が続きます。途中、石塔や首の欠けた薬師如来像が立っています。
やがて、クサリ場を登った先に「根本山神社」が見えてきます。男坂との合流地点でもあります。
行者山鞍部に立つ「根本山神社本社」。どうやって建てたのか…と不思議に思うほどの断崖の上に、根本山神社の本殿と釣鐘堂があります。社殿は老朽化につき立入禁止となっており、穴の開いた拝観窓口から手をのばしてお賽銭を入れます。覗き込むと立派な御本殿がありますが、足場が悪いため長居はできない状況で、拝観も一苦労です。
神社から先は、ヤセ尾根、岩場、クサリ場の連続です。クサリと、岩場、木の根っこを掴んで慎重に登っていきます。
クサリ場を登ったところにある大きな岩です。岩上まで慎重に登ると、石祠があり、正面には日光白根山が望めます。根本山は基本的にあまり展望が良くないため、展望が良い箇所は貴重です。
その後もクサリ場は続きます。そして、獅子岩から10分くらい進んだヤセ尾根に根本山神社の奥社があります。
ここから先はクサリ場がなくなり、少し落ち着いた尾根道になります。
山というよりは小高いピークです。樹木に覆われ展望はありません。「行者山」の小さな標識があります。
行者山からは、左へ折れますが、直進方向にも尾根道が続いています。地図にはないバリエーションルートがあるようですが、この辺りは地図上でUの字を描くルートで、方向感覚が狂うかもしれません。道迷いに充分注意してください。
「江戸期の鉄鎖」を経由して、一度鞍部へ下がり、再び登り返します。
中尾根ルートとの合流地点です。分岐を左に折れて、道なりに進むと15分程度で根本山の山頂に着きます。
山頂には立派な標識があります。ランチ休憩するには充分なスペースがあり、自然林のなかで休息ができます。ただし、樹木に囲まれているため、展望は望めません。
山頂の少し先に「天狗の見晴らし」という展望スポットがあるので、足を延ばしてみましょう。枯れ木が天狗に見えます。アカヤシオで有名な袈裟丸山(けさまるやま)、皇海山(すかいさん)、赤城山が望めます。
山頂からは、十二山や熊鷹山への登山道がのびています。熊鷹山は展望が良く、根本山とセットで登る人が多い山ですが、今回は時間に余裕がないため下山します。
根本山への最短ルートであり、尾根伝いの歩きやすいコースのため、初心者や家族連れでも楽しめる一般的なコースです。
山頂から中尾根十字路まで引き返し、中尾根十字路をそのまま、不死熊橋へ向かって尾根道を進みます。春は、アカヤシオやトウゴクミツバツツジを愛でながら下ります。アカヤシオは、根本沢コースよりたくさん咲いていました。
半分以上下った中腹に石祠があります。
最後に、ヒノキの植林帯を下ると、中尾根コースの取り付きである根本沢林道にでます。駐車場までは、左の林道を下るコースと直進するショートカットコースがあります。ショートカットコースは、急斜面を下り山の中に入って根本沢コースの最初の急登に合流します。荒れた道や急斜面にお腹いっぱいであれば、林道を進むのが無難でしょう。
特に休憩もしなかったので、山頂から1時間半くらいで駐車場に到着。根本沢コースに比べ、明瞭で単調な道だったため、あっという間でした。
根本山の近くには、ミツマタで有名な「屋敷山ミツマタ群生地」があります。根本山の駐車場から30分くらい歩いたところにある大群生地で、より近くまで車で行くことも可能です。今まで関東周辺のミツマタのハイキングスポットにはいくつか訪れましたが、ここの規模は圧巻です。シーズンであれば立ち寄ってみるのも良いでしょう。
アクセス難易度は、特に公共交通機関利用の方には高めです。
最寄りのバス停から徒歩1時間以上かかります。
根本山は標高1,199mですが、豊かな自然のなかを歩く爽快感と、スリリングな岩場を乗り越えたあとの達成感が味わえる山です。そのうえ、歴史も感じられ、低山とは思えない充実した山歩きを楽しめるでしょう。他に登っている人も少ないため、特に静かな山歩きを好む方におすすめです。
知名度はそれほど高くない山ですが、個人的には、もっと名前が知れてもいいと思うほどおもしろい山でした。
▼登山やハイキングの体作りの参考に
▼登山をサポートしてくれるアイテム
▼HIKES編集長の里山トラベル
HIKES編集長の山歩きをTwitterでも発信しています。山歩きをしながら地域の歴史を巡る里山トラベル活動をしています。フォローされると喜びます。
こういう景色や山道が好きなんですが、同じような方います? #里山トラベル pic.twitter.com/y2tOkLOKlU
— m.miya | toritoke.inc (@masa_yco) September 28, 2019
山と旅を愛するライター。元同僚とゆる登山部を結成したのをキッカケに山にハマる。出没エリアは丹沢、夏山シーズンは長野・山梨方面の山へ。ソロ登山が多くマイペースに花を眺めたり、新たな発見を楽しみに登っている。登山口アプローチのために、そろそろペーパードライバー脱出を考えている…。
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