埼玉県屈指の豊富なハイキングコースが自慢の奥武蔵エリア。なかでも春のハイキングにおすすめなのが「桃源郷」とも称される花の名所「ユガテ集落」から、あの弁慶が何度も振り返ったと伝えられる景色が見られる「顔振峠(かあぶりとうげ)」を巡る低山縦走コースです。
この記事ではユガテ集落から越上山(おがみやま)を越えて顔振峠を巡るルートの難易度やアクセスについて、実際に歩いてみた感想とともに紹介します。
ユガテは埼玉県飯能市にある標高290mの山上集落です。春には梅や山桜、スミレ、カタクリ、コブシなど多くの花々が咲き、その景色は桃源郷と称されます。
現在は2軒の民家が残るのみの小さな集落ですが、地元のNPO法人がハイキングコースや休憩所、公衆トイレなどの整備をおこなっており、多くのハイカーが訪れるスポットです。また、登山マンガ「ヤマノススメ」にも登場していることから、聖地巡礼としてファンが訪れることも。
「ユガテ」は漢字で「湯ガ手(湯ヶ手)」もしくは「湯ガ天(湯ヶ天)」と書きます。名前の由来は諸説あるようですが、そのいずれも、昔この地に湯がたくさん出たことに関係しているようです。ただ、なぜカタカナ表記となったのかは不明のようで、非常にミステリアスです。
顔振峠は奥武蔵にある標高500mの峠道。3軒の茶屋があり、ハイカー、バイカー、ドライバーの休憩場所として賑わいます。
平安時代末期、源義経が兄の源頼朝と対立し、京を追われて奥州へ逃れる際にこの峠を通りました。その際、お供の武蔵坊弁慶ら主従があまりの展望の素晴らしさに何度も振り返りながら眺めたというエピソードから「顔振峠」と名が付いたといわれています(諸説あり)。
明治維新の際に、幕府の振武軍に参加していた渋沢平九郎は、飯能戦争から敗走しひとり顔振峠に辿り着きました。渋沢平九郎は、新一万円札の顔となることが決まっている渋沢栄一の義理の弟にあたる人物で、美しく整った顔立ちだったそうです。
峠の茶屋の女主人は、新政府軍から逃れるため秩父方面への道を勧めましたが、平九郎は生越町(おごせまち)方面へと下ったため、新政府軍と遭遇してしまい、自刃します。享年22歳でした。
それ以来、この地域では平九郎は「脱走の勇士様」(だっそ様)と呼ばれ、今も崇められています。
ユガテ~越上山~顔振峠のコースは、登山道が整備されており標識も多いので、道迷い箇所はほとんどありません。越上山まではやや険しい道ですが、それ以外は傾斜もきつくないので初心者でも安心して歩けます。
ただし、登山靴と登山用ザック、レインウェアといった、しっかりとした登山装備は必要です。スニーカーや手ぶらで山に入ることは避けてください。
今回は東吾野駅からユガテ、越上山、顔振峠までをつなぐ、通称「顔振峠と明るい山村を歩く道」のルートを歩きました。
西武池袋線の東吾野駅は新宿から1時間30分ほどで到着します。このあたりにはコンビニがないので、買い物をする場合は乗り換え地点の飯能駅などで済ませておくのがおすすめです。
電車を降りると、すぐに「ユガテ」「顔振峠」と書かれた大きな標識が!アニメ「ヤマノススメ サードシーズン」の第三話では、主人公ひなたがこの看板を見て「ユガテ」が気になるシーンがあります。ユガテ方面へはこの標識の方角へ進みましょう。
車道を15分ほど歩くと福徳寺に到着します。ここにはハイカーのために公衆トイレが併設されていました。
ユガテ方面へ行くには2ルートあり、今回は橋本山のピークを通る飛脚道を使いました。飛脚道は整備された比較的ゆるやかな傾斜の登山道です。途中、男坂と女坂の分岐があり、男坂を選ぶと展望のよい橋本山山頂へ、女坂はゆるやかな巻道となっています。
登山口から30分ほどで橋本山に到着しました。山頂からは西南方面の展望がよく、ユガテの手前の休憩場所としても最適です。
「きのこ園」と書かれた看板や炭焼き小屋が見えてきたら、ユガテ集落はもうすぐ。民家や畑がある場所に出たら、標高290mのユガテ集落に到着です。2軒の民家の住人が生活している場所ですが、ハイカーのためのトイレや広場が整備されていて、親切さを感じます。
運よくユガテの住人にお会いでき、集落内の植物や花について詳しく説明していただけました。訪問したのは3月下旬ですが、ヤマザクラはまだ咲き始めで、カタクリやコブシの花が見られます。桜は4月上旬が見頃とのこと。
桃源郷と呼ばれる理由がわかるほど素敵な雰囲気のある場所で、ついつい時間をかけて歩いてしまいました。
ユガテを過ぎると諏訪神社までトイレがないので、心配であれば済ませておきましょう。
ユガテを過ぎると、スギの木立が続き、緩やかなアップダウンを繰り返して3つのピークを踏む山歩きが始まります。傾斜はきつくないですが、単調な道が続くので根気がいるかもしれません。
ルートの途中で「茶之岳山(標高450m)」「蟹穴山(標高460m)」「大沢山(標高480m)」の3つのピークを踏みますが、山頂には手書きの標識が木にくくり付けられているだけなので気付かず通り過ぎてしまいそうになります。蟹穴山には標識が見当たりませんでした。
ユガテ~顔振峠のコースで唯一といえる急登があるのが、越上山(おがみやま)山頂までの道です。越上山は本道から逸れて10分ほど登ったところにあります。山頂まではかなり急峻な岩場の道が続き、片側が切れ落ちた岩の上を超える箇所があるので慎重に進みましょう。
ただ、頑張って登ってきた越上山からの展望はあまり良くありません。せっかくなので登ってみましたが、かなり体力を消耗したので、次からはスルーするかもしれません。
越上山を過ぎれば、諏訪神社はもうすぐです。途中にスカイツリーの展望場所がありましたが、春霞でまったく見えませんでした。
越上山の麓にある阿寺集落の鎮守、諏訪神社に到着。ここには公衆トイレがありますが、男女兼用であまりきれいではありません。
顔振峠へは、諏訪神社の本殿の左側を進みます。ここからはまたゆるやかに山中を歩き、15分ほどで顔振峠に出ます。
アスファルトの道(奥武蔵グリーンライン)に出て進むと、今回の最終ゴール地点「顔振峠」に到着です。
平九郎茶屋の駐車場からの眺めです。一番右側に見えるのが秩父の武甲山。あとはうっすらとしか見えませんが、空気が澄んでいるときは奥武蔵の山々、富士山や丹沢の山々も見えるようです。桜は咲き始めでした。
渋沢平九郎ゆかりの「平九郎茶屋」にて昼食タイム。店内には美男子だったという平九郎のオリジナルグッズが並んでいます。
2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」にも平九郎と顔振峠のエピソードが放映され、話題になりました。
いただいたのは「月見うどん(700円)」と「みそおでん(300円)」。うどんは太くて食べ応えがあり、エネルギー補給にぴったり。みそおでんはゆず風味の甘めのみそがかかっていて、疲れた体にやさしく染み込むような味でした。
エネルギー補給が完了したら、吾野駅を目指して下山開始です。25分ほど下ると、民家のあるアスファルトの道に出ます。
江戸から秩父までの秩父三山参りや秩父の絹商取引に利用され繫栄した秩父街道の宿場町として栄えた「吾野宿(あがのじゅく)」。埼玉県の「景観重要建造物」となっているこの古民家では、ゲストハウス、カフェレストランが運営されています。吾野駅までの道中、歴史散策をしてみるのもおすすめです。
旅のゴール、吾野駅に到着しました。駅の目の前には「奥武蔵美晴休憩所」があるので、そばやうどんを食べたりビールを飲んだりして電車を待つのもいいですね。
駅から徒歩でアプローチでき、ユガテの花や景色、歴史的な名所を見られる充実のコースでした。ピークハント目的でなく、穏やかな尾根道歩きを楽しみたい人におすすめできます。
東吾野駅方面からスタートすると、顔振峠でのランチタイムは嬉しいご褒美!歴史ロマンに浸りながらの山旅を、ぜひ体験してみてくださいね。
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今日は長野県松本市と新潟県糸魚川市を結ぶ全長120kmになる「塩の道トレイル」の一部を歩いてきました。松本市にある牛つなぎ岩から安曇野市の穂高神社まで、約30kmを7時間ぐらいです。市街地が多いコースですが、アルプス公園をまたぐ道や安曇野の道祖神巡りで楽しめました。#里山トラベル pic.twitter.com/gKAPNGXCUO
— m.miya(宮本将弘) (@masa_yco) May 7, 2022
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
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