トレイルランと登山は、山を「走る」のか「歩く」のかという違いだけで、似たようなものだと思いがちですが、実はまったく異なるスポーツです。どちらも自然の中で行うアクティビティですが、コースや速度、必要な技術や装備、そしてリスクなどの点で大きな違いがあります。
そこでこの記事では、トレイルランと登山の違いについて解説します。
トレイルランとは、山や森林、草原、海岸など自然の中を走るスポーツです。舗装された平坦な道を走るのとは違い、石や岩、木の根、階段などがある不安定で高低差のある道(トレイル)を走ります。
アメリカやヨーロッパで以前から人気のあるスポーツで、日本ではランニングや登山の人気が相まって2010年ごろから愛好者が増えました。
トレイルランでは自然の中を走るため、コースが複雑です。急な登り坂や下り坂、石や木の根のある登山道はもちろん、コースによっては沢を渡ったり岩場を越えたりする場合もあります。一般的なランニングとは違い、走るフィールドによって見える景色が変化に富み、また季節ごとに違った自然が楽しめます。
トレイルランを行うにあたっては、舗装路を走るのとは異なるルールやマナーがあります。例えば自然環境を守るため、コースから外れてはいけません。張られたロープの内側を走り、草木を踏みつけたりしないようにしましょう。また、ゴミを捨てることももちろん禁止されています。出たゴミはすべて持ち帰りましょう。
その他、狭い登山道で他のトレイルランナーや登山者とすれ違う場合は、登りの人が優先されます。下りの場合は、足を止めて脇によけ、道を譲りましょう。また、もし相手が譲ってくれたとしても、走りながらの追い越し、すれ違いは危険なので、必ず徒歩で行い、譲ってくれた人に挨拶を忘れないようにしましょう。
トレイルランは登山よりも軽装備にする必要があります。ここからは、トレイルランに特徴的な基本の装備を5つ紹介します。
トレイルランには専用のシューズが必要です。トレイルラン用のシューズはローカットで、見た目はランニング用のシューズと似ていますが、ソールに違いがあります。トレイルラン用のシューズはソールのグリップ力が高いため、岩場やぬかるみなど足場の悪い場所でも滑りにくく、安定した走行ができるのが特徴です。
バックパックの容量は、10〜12Lくらいのものが汎用性が高く、初心者におすすめ。トレイルラン用のバックパックは背中の上部に重心がくるようになっており、ベストのようなフィット感があるのが特徴です。
トレイルランには吸汗性の高いウェアが適しています。さらに、吸い取った汗を外へ逃がす速乾性のあるものが良いでしょう。また、雨や寒さなどの天候に対応できる防水性や防風性の高いジャケットも必須アイテムです。容量の小さいバックパックに入れるため、軽量で小さく折りたためるものが、より良いです。
ハイドレーションとは、ソフトバッグをザックの荷室に収納し、長く伸びたチューブから給水するアイテムで、走りながら水を飲むことができます。
ザックの胸あたりにある前ポケットに収納するボトルタイプもありますが、ハイドレーションは背中に重みがあるため、重心がより安定します。また、ボトルタイプより容量も大きく持ち運べる水分量が多いので、初心者におすすめです。
エネルギージェルは糖分が豊富で消化しやすく、手軽にすばやくエネルギー補給ができるため、行動食に最適です。その他、糖質が高く、すぐにエネルギー源となるドライフルーツやようかん、高カロリーのグラノーラバー、また食べたものをエネルギーに変換するのを助けるナッツなどは、軽量で食べやすく、持ち運びもしやすいのでおすすめです。
トレイルランでは発汗によって体内の塩分も失われやすいため、糖分に加えて塩分の補給も欠かせません。その点、塩で炒ったナッツなら塩分も同時に摂ることができます。また、効率よく塩分補給ができる塩分タブレットも良いでしょう。同じ味のものばかりでは飽きてしまうので、甘いものや塩味のもの、また食感の異なるものなどを何種類か携行するのがポイントです。
トレイルランの魅力は、自然と一体化したような気持ちになれることです。街中のアスファルトの道路では味わえない、山や森の緑、川のせせらぎなど自然の美しさを楽しめます。さらに、自然は季節や気候条件、時間帯によっても表情が変わるので飽きが来ません。
刻々と景色の変わる自然の中の道を、ただ走ることに集中していると、頭がスッキリし、ストレス解消やリフレッシュにもつながるでしょう。
不規則な地形やアップダウンのあるコースを走ることで、足腰の筋力が強化されるほか、バランス感覚や反応力も同時に養われます。また、トレイルは地面が柔らかいため、アスファルトの道路でのランニングと比べて骨や関節の痛みのリスクが減らせるのも嬉しいポイントです。
トレイルランは全国で多くのレースが開催され、世界的に有名なレースもあります。走るモチベーションを上げるために、レースへの出場や入賞を目標にするのもおすすめです。また、トレイルランのレースは参加者同士のコミュニケーションが活発なので、トレイルランを一緒に楽しむ仲間を作ることもできます。
一般的に、トレイルランは通常のハイキングコースや登山コースを利用します。登山では整備されていない登山道を歩くこともありますが、トレイルランでは、きれいに整備された登山道で、急勾配が比較的少なく走りやすい道が多いです。またスピードが速いため、距離の長いコースが好まれます。
当然のことながら、トレイルランのほうがスピードが速く、短時間でコースを駆け抜けます。そのため、登山では基本的に山頂までを往復しますが、トレイルランの場合は登山口から山頂までを1日何往復もする人もいます。
ただし、トレイルランは急な上り坂や足元が悪い場所では走る速度を緩めたり、歩いたりすることもあり、ペースは一定ではありません。
トレイルランは、基本的には走ることができれば誰でも始められますが、登りや下りの際には、体重移動やステップの踏み方など、少しのテクニックが必要です。例えば、上りでは手で太ももを上から押しつけながら登る「パワーウォーク」や、下りでは膝を曲げ、腕や上半身でバランスを取るようにしてリズムよく走るテクニックなどがあります。
一方、登山では登る山や季節によってはロープワークや岩場でのクライミング技術など、専門的な技術が必要になる場合があります。
すでに紹介したとおり、トレイルランで必要な装備は、ローカットのランニングシューズ、ランニングウェア、ハイドレーションなど、走るために最低限の軽量な装備がほとんどです。
反対に、登山では登山靴やアイゼン、ピッケル、ヘルメットなど、専用の装備が必要になることもあり、荷物は多くなりやすいです。またトレイルランは基本的に日帰りですが、登山の場合は山で何泊もする場合があるため、着替えや食料など必要な荷物も多くなります。
登山には、高山病や落石、雪崩などの自然災害に加え、高所からの転落や事故のリスクがあります。一方、トレイルランにおいては、足を捻ったり、転倒したりなど、ケガのリスクがあります。また、どちらにも共通して、天候の急変や動物に遭遇するリスクがあるため、周囲の状況を常に把握し、安全第一で行動することが大切です。
トレイルランと登山の違いを紹介しました。どちらも自然の中で体を動かすことができ、リフレッシュできるアウトドア・アクティビティです。トレイルランを始めてみたい場合、まずは初心者向けのコースで試してみることをおすすめします。
また、安全に楽しむためには、必要な装備の携行やトレイルでのルール、マナーを守ることが大切です。それさえクリアすれば、スタイルは人それぞれ。自分に合ったスタイルで山の魅力を存分に味わってくださいね。
▼登山やハイキングの体作りの参考に
▼登山をサポートしてくれるアイテム
▼HIKES編集長の里山トラベル
HIKES編集長の山歩きをTwitterでも発信しています。山歩きをしながら地域の歴史を巡る里山トラベル活動をしています。フォローされると喜びます。
山歩きと暮らしをテーマに各地の里山を巡る里山トラベラー宮本将弘さん。「里山トラベルとは?登山やハイキングとの違い」を語っていただきました。https://t.co/rifuJPYigx#BEPAL #ビーパル pic.twitter.com/EfgRcuYMDK
— BE-PAL編集部⛺ (@bepal_staff) November 12, 2019
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
登山で苦手な登りを克服!疲れにくい登り方や注意すること
山に登り始めた途端にすぐ息が上がってしまい、疲れてしまうため「登りが苦手」と思っている方も多いのでは…
登山でバテないためのトレーニング。今すぐできるメニューと注意点
下山するまで、登山を安全に楽しもうと思ったら、やっぱりトレーニングをするのが一番です。でもトレーニン…
登山は体力がないとできない?体力が必要な理由とトレーニング方法
登山するために体力があるに越したことはありませんが、「体力に自信ができてから」「筋肉をつけてから」と…
登山で疲れないためのコツは?歩き方や回復方法、疲れない体作るをご紹介
登山は楽しい!でも帰ってからの疲れが中々とれないということはよくありますね。疲れるから登山に行きたく…
【那須岳(茶臼岳・朝日岳)】火山のダイナミックな光景と紅葉をロープウェイを利用して楽しむ日帰り登山
那須岳(なすだけ)は栃木県北部に位置する那須連山、特に「茶臼岳(ちゃうすだけ)」「朝日岳(あさひだけ…
【岩木山】青森県の最高峰を九合目からお手軽に登頂
津軽平野の南西にそびえる岩木山は、青森県の最高峰で日本百名山に選定されています。その美しい円錐型の山…
【男体山】中禅寺湖を振り返りながら奥日光の霊山を登る日帰り登山
男体山は中禅寺湖の北側にそびえる、美しい円錐形の山です。古来、日光二荒山神社(ふたあらやまじんじゃ、…
【木曽駒ヶ岳】初心者でもロープウェイで中央アルプス最高峰へ!千畳敷カールの絶景が待つ日帰り登山
中央アルプス最高峰の木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)は標高3000mに迫る標高がありながら、ロープウェイ…
【大台ヶ原】豊かな自然と見どころ満載の東大台ハイキングコースを歩く
奈良県と三重県の県境に位置する「大台ヶ原(おおだいがはら)」は、日本百名山をはじめ、日本百景、日本の…
【奥多摩・御前山】奥多摩湖から始まる急登の連続!達成感を味わえる日帰り登山
大岳山(おおだけさん、おおたけさん)、三頭山(みとうさん)とともに奥多摩三山に数えられる「御前山(ご…
【塔ノ岳・登山】首都圏近郊の好展望の山!丹沢を代表する人気コース表尾根を歩く
表丹沢の「塔ノ岳(とうのだけ)」は、展望の良さと都心からのアクセスのしやすさで人気の山です。標高は1…
【檜洞丸】西丹沢の秘境を巡る日帰り登山!アクセスと難易度、絶景ポイントを紹介
檜洞丸(ひのきぼらまる)は西丹沢の山深さが感じられる静かな山で、「西丹沢の盟主」とも呼ばれています。…
【袈裟丸山】花見登山を満喫!山肌をピンクに彩るアカヤシオの名山を歩く
栃木・群馬県境の足尾山地に属する袈裟丸山(けさまるやま)は、アカヤシオの名所として名高い山で、シーズ…
【大楠山・登山】三浦半島を横断!海と山の360°パノラマが楽しめる低山ハイキング
神奈川県三浦半島の最高峰、大楠山(おおぐすやま)。海に囲まれた半島に位置するため、東京湾、房総半島、…
【群馬・根本山】自然のアスレチック!低山ながらスリルと登りごたえのある古道歩き
栃木・群馬両県の百名山に選定されている「根本山」は、古くから信仰の山として親しまれています。根本山へ…
【丹沢・不動尻】一面黄色の世界!早春のハイキングで「ミツマタ」を見に行こう!
春が来て登山・ハイキングに最適なシーズンとなりました。春ハイキングの楽しみのひとつに、山で出合うお花…
トレイルランと登山の違いを解説!自分に合った山のスタイルを見つけよう
トレイルランと登山は、山を「走る」のか「歩く」のかという違いだけで、似たようなものだと思いがちですが…
【積雪期・谷川岳】雪山初心者におすすめ!日帰りで360度白銀の世界へ
「トマの耳」「オキの耳」の双耳峰(そうじほう)からなる「谷川岳(たにがわだけ)」は、日本百名山のひと…
【伊豆ヶ岳】奥武蔵屈指の人気コースを歩く日帰り縦走登山
気軽にハイキングが楽しめる低山の多い奥武蔵エリア。その中でも一番人気といわれるのが伊豆ヶ岳(いずがた…
【皆野アルプス】身近な里山のアルプスを縦走する日帰り登山(破風山・前原山・大前山・天狗山)
皆野アルプスは破風山をはじめとしたいくつかのピークをつなぐ低山縦走コースです。最高峰の大前山でも65…
【三国山・鉄砲木ノ頭】富士山の絶景を満喫するハイキングコース
丹沢山地の西端、山中湖の近くに位置する「三国山(みくにやま)」は、神奈川県、山梨県、静岡県の3県にま…
【丹沢・大山】都心からアクセス抜群!大山阿夫利神社と紅葉スポットを散策する日帰り登山
関東屈指の人気の山域、丹沢の東側に位置する大山は、ピラミダルな美しい山容が特徴の山です。古くから山岳…
【鳥取・大山】初心者でも安心!自然と歴史満喫の夏山登山道、行者コースを歩く
鳥取県西部に位置する「大山(だいせん)」は、西日本最大級のブナ林や国の特別天然記念物ダイセンキャラボ…
【棒ノ折山・登山】「鎌倉殿の13人」畠山重忠ゆかりの山!渓谷を沢登り気分で楽しむ日帰り登山
奥武蔵エリアにある「棒ノ折山(ぼうのおれやま)」は、渓流沿いのコースで沢歩き気分が楽しめる山です。ゴ…