尾瀬ヶ原の西側に位置し、燧ケ岳とともに尾瀬のシンボルとなっている至仏山。高山植物の宝庫としても知られ、登山道から色とりどりの珍しい花々を見ることができます。
この記事では、至仏山のルートや難易度、アクセス、実際に歩いてみた感想を紹介します。夜行バスを利用すれば関東圏から日帰りでも登れるので、ぜひ参考にしてくださいね。
至仏山(しぶつさん)は、本州最大規模の高層湿原である尾瀬ヶ原の西側にある標高2228mの山です。尾瀬ヶ原を挟んで向かい合う燧ケ岳(ひうちがたけ)とともに尾瀬を代表する山として知られ、日本百名山にも選定されています。
至仏山の特徴は、高山植物が豊富なことです。山のほとんどが蛇紋岩でできているため、オゼソウやホソバヒナウスユキソウなど、蛇紋岩の多い山でしか見られない珍しい高山植物の宝庫で、花の百名山にも選ばれています。
至仏山の名前には「仏」が入っていますが、仏教に由来するものではありません。大正時代に、渋沢(山麓を流れるムジナ沢の別名)沿いを登ったことに由来し、「渋沢」が「至仏」に変化したという説があります。
至仏山は群馬県の北東部、みなかみ町と片品村との間にあります。
登山の起点となる「鳩待峠」へ公共交通機関でアクセスするには、電車とバスを使う方法と高速バスを使う方法があります。
電車とバスを使う場合は、上越新幹線上毛高原駅またはJR上越線沼田駅より関越交通の「尾瀬戸倉・大清水行き」バスに乗車し、尾瀬戸倉で下車。戸倉から鳩待峠へは、乗合バスもしくは乗合タクシーで向かいます。
東京方面から高速バスを使う場合は、新宿駅高速バスターミナル・川越駅から直通の、関越交通の高速バス「尾瀬号」で戸倉まで向かい、乗合バスもしくは乗合タクシーにて鳩待峠へ。東京方面から日帰りで至仏山に登るなら、早朝に到着する夜行便で行くのがおすすめです。
車でアクセスする場合は、関越自動車道沼田ICから国道120号、401号を経由し戸倉にある尾瀬第一駐車場・尾瀬第二駐車場(有料)へ。そこから乗合バスもしくは乗合タクシーにて鳩待峠へ向かいます。
鳩待峠から至仏山の山頂までは標高差637mで、比較的なだらかな箇所が多いですが、森林限界を越えた2000m以上になると足場の悪い箇所もあるので、難易度は中級程度といえます。さらに、まだ残雪のある7月上旬は、アイゼンが必要なため難易度も上がります。
至仏山登山のベストシーズンは、7月中旬~9月下旬まで。例年、5月から6月にかけては植生の保護を目的とした入山規制がおこなわれており、登山できるのは残雪期の4月中旬頃~5月のGW期間までと、7月1日前後の山開き以降となっています。
至仏山の山頂までの最短コースとなる、鳩待峠からの往復コースを実際に歩いてきました。
登山のスタート地点、鳩待峠まではマイカーと乗合タクシーを使ってアクセスしました。この日は平日だったので戸倉から鳩待峠までのマイカー規制はありませんでしたが、鳩待峠駐車場は朝7時の時点ですでに満車。
そのため、戸倉にある尾瀬第一駐車場に駐車し、乗合タクシーを利用しました。尾瀬第一駐車場の利用料金は24時間1000円、乗合タクシーの利用料金は1人1000円です。
鳩待峠休憩所には、食事できる店やバッジなどのおみやげを購入できる店があります。その他、有料トイレ(チップ制)があり、利用料金は100円です。至仏山にはこの先トイレがないので、鳩待峠ですませておくのがいいでしょう。
至仏山への登山口と尾瀬ヶ原方面への入口は隣り合っていて、間違いやすいのでしっかり確認しましょう。向かって左側の「至仏山登山口」と書かれた標識が目印です。 至仏山の東面の登山口「山ノ鼻」から登る場合は、鳩待峠から尾瀬ヶ原方面への道を1時間ほど歩きます。
今回は天候を考慮して日帰りの最短ルートを選びましたが、山ノ鼻やその先の見晴地区には山小屋が多数あるので、山小屋に宿泊してじっくりと尾瀬を堪能するのもおすすめです。
登山口からしばらくはブナやミズナラ、ダケカンバなどの森の中をゆるやかに登っていきます。夏場はクマザサが覆い、道が狭くなっている箇所もありますが、進んでいくと木道や木の階段が整備されている道に出るので歩きにくさはありません。
50分ほど登ると北側の展望が開けます。ここからは尾瀬ヶ原や燧ケ岳を望むことができ、腰掛けられる大きな岩もあるので休憩場所にぴったりです。
ここから進むと、ふたたび木の階段が続く樹林帯歩きになります。
木道の先にネットが張られた柵が見えてきます。この先がオヤマ沢田代です。湿原の植物をシカの食害から守るための柵なので、柵を通ったあとはしっかり閉めてから進みましょう。
湿原を抜けるとふたたび展望が開け、休憩用のベンチがありました。この一帯はお花畑が広がっており、夏はチングルマやハクサンフウロなどが見られます。
ここから先は森林限界を越え、長い木の階段の先は蛇紋岩の岩場が続く岩稜地帯です。蛇紋岩は滑りやすいので、足を置く場所を確認しながら慎重に登っていきます。
登山開始から2時間ほどで小至仏山の山頂に到着しました。360度の展望が広がり、目指す至仏山の山頂方面も見渡せます。
岩で固められたような山頂は狭く、腰掛けられる場所も少ないので休憩にはあまり向きません。一呼吸おいたら、至仏山へ向かって進みます。
小至仏山から至仏山山頂まではおよそ45分。
いったん鞍部に下ったあとに登り返しますが、その間も蛇紋岩の岩場の連続のため、気が抜けません。気を張って進まなければいけないので、思ったよりも体力を消耗しました。
植生を守るためのロープが岩場にもしっかり張られているので、道迷いの心配はありません。山頂から下ってくる人が多いとすれ違いが大変ですが、ロープの外には出ないように気を付けましょう。
スタートから2時間40分で至仏山の山頂(2228m)に到着です。
晴れていれば北側に尾瀬ヶ原や燧ヶ岳、東側に日光連山、西側に上越の山々、南側に上州武尊山など、360度の大パノラマを望むことができます。しかし、この日は残念ながら、展望が開けませんでした。
尾瀬ヶ原方面の山ノ鼻から登る東面ルートとは山頂で合流します。東面ルートは登り専用で、鳩待峠方面にしか下山できないので注意しましょう。
下りのコースタイムは2時間ほど。小至仏山、オヤマ沢田代を経由して、往路と同じ道を下山します。
至仏山は麓から眺めるとゆるやかな曲線を描く女性的な山容に思えますが、山頂付近は蛇紋岩の岩稜地帯で険しい面も持ち合わせている山でした。とはいえ、コースの周辺には可憐な高山植物が見られ、ついつい足を止めて花の写真を撮ったり、花の名前を調べたりする楽しさもありました。
しかし、マイカー規制や木道の整備、保護柵など、尾瀬の自然保護がしっかりおこなわれているからこそ、私たちが登山を楽しめるということも忘れてはいけませんね。繊細で美しい面とワイルドな面、2つの異なる印象をあわせ持つ至仏山にぜひ登ってみてください。
▼登山やハイキングの体作りの参考に
▼登山をサポートしてくれるアイテム
▼HIKES編集長の里山トラベル
HIKES編集長の山歩きをTwitterでも発信しています。山歩きをしながら地域の歴史を巡る里山トラベル活動をしています。フォローされると喜びます。
左が石灰が掘られる前、右が現在の武甲山。山が削られることで悲しみの声がある一方、助けられてる面もあり、全部ひっくるめて武甲山なんだと資料館に立ち寄ってわかった。ちなみにチョコレートにも石灰石が使われてることには驚いた!#里山トラベル #武甲山 pic.twitter.com/0XR6Uy5gnk
— m.miya(宮本将弘) (@masa_yco) February 23, 2020
山に恋するフリーライター。運動嫌いだったのに、たまたまテレビで見た岩手山に一目惚れして登山を始める。ソロ登山の魅力にハマり、低山ハイキングからテント泊縦走まで自分のスタイルで楽しんでいる。
登山で訪れた土地の郷土料理や地酒、クラフトビールを楽しむのが至福の時間。地方の伝統工芸品や民芸品をアウトドアで使うのが好き。
【百蔵山】富士山の展望と変化のあるトレイル、下山後は猿橋観光を楽しもう!
山梨県の大月市にある百蔵山(ももくらやま)は、JR中央線の駅から登れるアクセス抜群の山です。 「秀麗…
【男体山】中禅寺湖を振り返りながら奥日光の霊山を登る日帰り登山
男体山は中禅寺湖の北側にそびえる、美しい円錐形の山です。古来、日光二荒山神社(ふたあらやまじんじゃ、…
【明神ヶ岳登山】結構キツいは本当?富士山を眺めながら清々しい笹の稜線を歩く縦走登山
明神ヶ岳は箱根の外輪山のひとつで、富士山、大涌谷、相模湾を望む絶景が楽しめる山です。明神ヶ岳の隣に位…
【木曽駒ヶ岳】初心者でもロープウェイで中央アルプス最高峰へ!千畳敷カールの絶景が待つ日帰り登山
中央アルプス最高峰の木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)は標高3000mに迫る標高がありながら、ロープウェイ…
【袈裟丸山】花見登山を満喫!山肌をピンクに彩るアカヤシオの名山を歩く
栃木・群馬県境の足尾山地に属する袈裟丸山(けさまるやま)は、アカヤシオの名所として名高い山で、シーズ…
安達太良山(あだたらやま)
ほんとの空がここにある!花の百名山「安達太良山」 【山域】奥羽山脈南部【標高】1,700m 安達太良…
高尾山(たかおさん)
東京都にあるミシュランガイドにも認定された都会のオアシス「高尾山」 【山域】秩父山地【標高】599m…
川苔山(かわのりやま)
奥多摩の渓谷を歩く「川苔山」登山。百尋ノ滝も必見! 【山域】奥多摩【標高】1,364m【登山レベル】…
仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)
南アルプスの女王「仙丈ヶ岳」花と雷鳥がお出迎え 【山域】南アルプス北部【標高】3,032m 南アルプ…
【大台ヶ原】豊かな自然と見どころ満載の東大台ハイキングコースを歩く
奈良県と三重県の県境に位置する「大台ヶ原(おおだいがはら)」は、日本百名山をはじめ、日本百景、日本の…
【那須岳(茶臼岳・朝日岳)】火山のダイナミックな光景と紅葉をロープウェイを利用して楽しむ日帰り登山
那須岳(なすだけ)は栃木県北部に位置する那須連山、特に「茶臼岳(ちゃうすだけ)」「朝日岳(あさひだけ…
【岩木山】青森県の最高峰を九合目からお手軽に登頂
津軽平野の南西にそびえる岩木山は、青森県の最高峰で日本百名山に選定されています。その美しい円錐型の山…
【男体山】中禅寺湖を振り返りながら奥日光の霊山を登る日帰り登山
男体山は中禅寺湖の北側にそびえる、美しい円錐形の山です。古来、日光二荒山神社(ふたあらやまじんじゃ、…
【木曽駒ヶ岳】初心者でもロープウェイで中央アルプス最高峰へ!千畳敷カールの絶景が待つ日帰り登山
中央アルプス最高峰の木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)は標高3000mに迫る標高がありながら、ロープウェイ…
【大台ヶ原】豊かな自然と見どころ満載の東大台ハイキングコースを歩く
奈良県と三重県の県境に位置する「大台ヶ原(おおだいがはら)」は、日本百名山をはじめ、日本百景、日本の…
【奥多摩・御前山】奥多摩湖から始まる急登の連続!達成感を味わえる日帰り登山
大岳山(おおだけさん、おおたけさん)、三頭山(みとうさん)とともに奥多摩三山に数えられる「御前山(ご…
【塔ノ岳・登山】首都圏近郊の好展望の山!丹沢を代表する人気コース表尾根を歩く
表丹沢の「塔ノ岳(とうのだけ)」は、展望の良さと都心からのアクセスのしやすさで人気の山です。標高は1…
【檜洞丸】西丹沢の秘境を巡る日帰り登山!アクセスと難易度、絶景ポイントを紹介
檜洞丸(ひのきぼらまる)は西丹沢の山深さが感じられる静かな山で、「西丹沢の盟主」とも呼ばれています。…
【袈裟丸山】花見登山を満喫!山肌をピンクに彩るアカヤシオの名山を歩く
栃木・群馬県境の足尾山地に属する袈裟丸山(けさまるやま)は、アカヤシオの名所として名高い山で、シーズ…
【大楠山・登山】三浦半島を横断!海と山の360°パノラマが楽しめる低山ハイキング
神奈川県三浦半島の最高峰、大楠山(おおぐすやま)。海に囲まれた半島に位置するため、東京湾、房総半島、…
【群馬・根本山】自然のアスレチック!低山ながらスリルと登りごたえのある古道歩き
栃木・群馬両県の百名山に選定されている「根本山」は、古くから信仰の山として親しまれています。根本山へ…
【丹沢・不動尻】一面黄色の世界!早春のハイキングで「ミツマタ」を見に行こう!
春が来て登山・ハイキングに最適なシーズンとなりました。春ハイキングの楽しみのひとつに、山で出合うお花…
トレイルランと登山の違いを解説!自分に合った山のスタイルを見つけよう
トレイルランと登山は、山を「走る」のか「歩く」のかという違いだけで、似たようなものだと思いがちですが…
【積雪期・谷川岳】雪山初心者におすすめ!日帰りで360度白銀の世界へ
「トマの耳」「オキの耳」の双耳峰(そうじほう)からなる「谷川岳(たにがわだけ)」は、日本百名山のひと…
【伊豆ヶ岳】奥武蔵屈指の人気コースを歩く日帰り縦走登山
気軽にハイキングが楽しめる低山の多い奥武蔵エリア。その中でも一番人気といわれるのが伊豆ヶ岳(いずがた…
【皆野アルプス】身近な里山のアルプスを縦走する日帰り登山(破風山・前原山・大前山・天狗山)
皆野アルプスは破風山をはじめとしたいくつかのピークをつなぐ低山縦走コースです。最高峰の大前山でも65…
【三国山・鉄砲木ノ頭】富士山の絶景を満喫するハイキングコース
丹沢山地の西端、山中湖の近くに位置する「三国山(みくにやま)」は、神奈川県、山梨県、静岡県の3県にま…
【丹沢・大山】都心からアクセス抜群!大山阿夫利神社と紅葉スポットを散策する日帰り登山
関東屈指の人気の山域、丹沢の東側に位置する大山は、ピラミダルな美しい山容が特徴の山です。古くから山岳…
【鳥取・大山】初心者でも安心!自然と歴史満喫の夏山登山道、行者コースを歩く
鳥取県西部に位置する「大山(だいせん)」は、西日本最大級のブナ林や国の特別天然記念物ダイセンキャラボ…
【棒ノ折山・登山】「鎌倉殿の13人」畠山重忠ゆかりの山!渓谷を沢登り気分で楽しむ日帰り登山
奥武蔵エリアにある「棒ノ折山(ぼうのおれやま)」は、渓流沿いのコースで沢歩き気分が楽しめる山です。ゴ…